将棋の話題 第十五局
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第69期名人戦七番勝負第5局

https://shogidb2.com/games/2a5d4edeb2c0fd37373a5225a2fb5c047a798838

  第69期将棋名人戦七番勝負の第5局は、6月1日朝から兵庫県宝塚市の宝塚ホテルで指し継がれ、午後8時38分、羽生善治名人が挑戦者の森内俊之九段を106手で破り、対戦成績を2勝3敗とした。

 下図はマイボナでの解析結果のグラフである。グラフを見る限り90手目あたりまでは僅かだが先手の森内九段が指し易そうな局面が続き、その後羽生名人が優勢になりそのまま一気に押し切った様子が窺える。新聞の論評でも「2日目の午前中には銀桂交換の駒得になった森内が指しやすいのではないかと見られたが、羽生が巧みな指し回しで優勢になり、粘る森内を振り切った」 とあるので、ソフトとプロの大局観はほぼ一致していた物と思われる。

110531_01.jpg

  今回の対局では、後手の羽生名人とBonanza6.0との指し手一致率が極めて低く、他のソフトを使っても羽生名人の次の一手を当てる事がなかなか難しかった。検討陣の予想もことごとく外されていたようである。通常ソフトの候補手以外が指されると評価値が悪くなる傾向が強いが、ソフトの全く考え付かないような手を羽生名人が指しても評価値が大きく下がるというような事はなかった。さすがに羽生名人の頭脳はソフトの思考の上を行く優れた物であるという事を実感した。
一致率(○,○+△)
先手:(24,30)/38=(63.2,78.9)%
後手:(16,25)/38=(42.1,65.8)%

 下図は飛車を打ち込まれて森内九段が83手目▲2八銀と受けた局面である。GPS将棋にこの局面を検討させてみると、△5四飛と指して羽生名人の方が有利という結果である。

[628]  △5四飛(14)▲6七金(78)△4四歩(43)▲同歩(45)△同飛(54)▲4五歩打△同飛(44)▲同銀(46)△同桂(33)▲4四飛打△4三金(52)▲4五飛(44)

 ところが84手目、羽生名人はソフトが全く思いも付かない手を放つ。結論から言うと、どうやらここからは羽生名人の鋭い寄せに入って行くのだが、その寄せをソフトは全く読む事ができないようなのである。

110531_02.jpg
83手目▲2八銀まで

  84手目、羽生名人が放った一着は△4五桂だった。下図は85手目▲4五同銀と桂を取った局面だが、この局面をGPS将棋に検討させてみると、△4四歩と指してほぼ互角という判断をしている。ソフトの候補手△5四飛と比べると評価値が下がって随分後手が損をした感じがするのだが・・・・・。

[78]  △4四歩(43)▲7六歩打△3七歩打▲同銀(28)△3九角成(75)▲同金(38)△同飛成(29)▲4八銀(37)△1九龍(39)▲4四角(88)△4三香打▲1一角成(44)△4五香(43)

 やはりここでも羽生名人の指した手は△4四歩ではなかった。
110531_03.jpg
85手目▲4五同銀まで

  上図の局面から羽生名人は86手目△5七歩と指した。下図は△5七歩に対して87手目▲4七玉と上った局面。下図の局面をGPS将棋で検討してみると、

[175]  △4四歩(43)▲5四銀(45)△4九飛成(29)▲4八金(38)△5八歩成(57)▲4九金(48)△5七角成(75)▲3七玉(47)△4九と(58)▲6一飛打△5一金(52)▲5三桂打△4二玉(41)▲8一飛成(61)

 ここでもソフトは△4四歩でほぼ互角の形勢判断をしているが羽生名人の鋭い寄せが続く。

110531_05.jpg
87手目▲4七玉まで

  88手目羽生名人は△4九飛成と指した。▲4八金と寄る一手(下図)にはGPS将棋は△2九竜が最善と考えているようだ。

[-153]  △2九龍(49)▲3七銀(28)△1九龍(29)▲6四桂打△5八歩成(57)▲5二桂成(64)△同玉(41)▲5八玉(47)△4四香打▲同銀(45)△同歩(43)▲6四歩(65)△同角(75)▲6八香打

110531_06.jpg
89手目▲4八金まで

  90手目、羽生名人は竜を逃げずに△5八歩成と歩を成った。先手は竜を取るしかなさそうだ(下図)。金で竜を取った局面をGPS将棋で検討してみると。

[892]  △5七角成(75)▲3八玉(47)△4九と(58)▲7一飛打△5一金(52)▲3三桂打△4二玉(41)▲7二飛成(71)△5二金(51)▲4一桂成(33)△同玉(42)▲8一龍(72)△5一桂打▲6四桂打△4八馬(57)▲2九玉(38)

 ここに来てやっとソフトも後手の優勢に気が付いたようだ。

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91手目▲4九金まで

  どうやら後手84手目からの△4五桂▲同 銀△5七歩▲4七玉△4九飛成▲4八金△5八歩成という寄せの手順がソフトでは全く読めないようである。▲ソフトの上を行く羽生名人の正確で鋭い読みが光った一局であった。
2011/06/18
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